2020M-152
2020年度 沿岸漁業向け監視装置の開発補助事業
佐賀大学海洋エネルギー研究センター
今井康貴
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1. 背景と目的
 地球温暖化による海水温上昇で沿岸水産業は大きな影響を受けている。例えば魚類の生態域が変わり従来の漁場で季節の魚が獲れないこと,高温化による赤潮の増加による養殖漁のへい死などが問題になっている。これら問題に対応するためには,沖合に頻繁に行って漁場や養殖場を監視する必要がある。その一方で水産業への就業者は減少・高齢化しており,頻繁に沖合に出ることは人的負荷が大きく,燃料費もかかることから海域監視の自動化・省力化が大きな課題となっている。
 そこで本事業では漁場の監視に使用可能な監視カメラをもつブイを提案する。沖合で運用する機器は陸上から電線を引くか,ディーゼル発電機のような独立電源が必要である。海上におけるソーラーパネル設置は海水腐食や海鳥糞害などの問題が発生する。そこで,独立電源として波力発電を使用する海洋監視ブイを提案する。実際に使用する小型ブイを試作し水槽実験でブイの性能を評価し,実海域に設置して海洋監視画像の撮影・送信実験を行った。

2. 海洋監視ブイ
 本研究で製作した海洋監視ブイを図2.1に示す。ブイはアルミニウム製の減揺板付き中空円柱(スパー),ドーナツ型のフロートから構成される。スパーとフロートは発電装置を介して連結されている。スパーとフロートの相対運動をすべりねじで回転に変換し,増速ギヤ付きの発電機を駆動する。


 図2.1 海洋監視ブイ

 動力取り出し部を図2.2に示す。すべりねじは直径8o,リード24oを用いた。発電機は小型直流モーターを用いた。

 図2.2 動力取り出し装置

 カメラ・通信ユニットの概略を図2.3に示す。シングルボードコンピュータRaspberry Pi と拡張ボードを用いてブイ周囲の静止画像を撮影した。静止画像は午前7時から午後7時まで20分毎に撮影した。カメラは幅600,高さ400画素のカラー画像を撮影し,携帯電話網に接続して画像を陸上サーバに送信した。


 図2.3 カメラ・通信ユニットをもつシングルボードコンピュータ

3. 造波水路実験
3.1 概要
 造波水路実験は佐賀大学海洋エネルギー研究センター伊万里サテライトで実施した。機器配置を図3.1に示す。水路は長さ17m, 幅0.8m, 水深1mである。ブイを中央に設置し,水槽端のプランジャ型造波機で波を起こし,波浪中におけるブイの発電と運動を計測した。造波機は、周期1〜3sec、波高1〜8cmの規則波,有義周期1〜3sec、有義波高1〜6cmの不規則波を作ることができる。ブイの波上側と波下側に4本ずつ波高計を設置して入射波と反射波を分離し,入射波のエネルギーを抽出した。

 図3.1 水路実験配置図

ブイの発電効率を入射波エネルギーW_1に対する発電装置の発電量W_2の比で定義した。

W_1は以下のように定義される。

ここでρは水の密度、gは重力加速度、ζは入射波振幅、C_gは群速度、Bはスパー直径である。不規則波の場合には以下になる。

S(f)は入射波のパワースペクトルである。
W_2は以下のように定義される。

ここでVは外部抵抗にかかる電圧、Iは電流である。
 発電計測と同時にスパーの運動をビデオトラッキングにより計測した。ブイに貼り付けたマーカーの動きを10Hzで撮影し、マーカーの軌跡を重心まわりの運動に変換した。また,スパーとフロートの相対距離もビデオトラッキングを用いて算出した。

3.2 規則波中の発電実験
 特性の違う発電機を2つ用意し、波高(H) 3cm または6cm、周期(T)を1〜3secを0.4secきざみでそれぞれ60秒計測した。ブイが発電した電力と入射波のエネルギーより発電機の効率を求め、効率の最大値が最も大きい発電機を決定した。その後、外部抵抗の値を変化させ、発電効率が最も高くなる外部抵抗を決定した。外部抵抗を100Ωの発電機特性を図3.2に示す。

図3.2 発電機特性

 発電効率を図3.3に示す。発電した電力は、周期1.4secのときが最大であり、発電効率は波高3p、周期1.4secのときが最大であった。波高が大きくなると入射波のエネルギーが大きいためH=6cmの発電効率は低下した。また、周期が2.2secよりも大きい場合は発電効率が低下した。これはsparとfloatの運動の相対速度が波高3cm、周期1.4sの時に最大であることに由来する(図3.4)。このときの2物体の動きを動画で詳しく見たところ、floatはほとんど動かず、sparが激しく動いていた。これは、波の周期と、sparの固有周期がほぼ一致していることを確認した。

図3.3 発電効率

図3.4 スパーとフロートの相対速度振幅

 上記より、波高3cm、周期1.4sのとき効率が最大を示した。この波条件で発効率におよぼす外部抵抗影響をみた。結果を図3.5に示す。外部抵抗を100Ωが最も発電効率が高いことを示した。

図3.5 発電効率におよぼす外部抵抗の影響

3.3 不規則波中の発電実験
 ブレトシュナイダー型スペクトルをもつ不規則波中における発電実験を行った。有義波高は3cm、6cmの2通り,有義周期は1〜 3sを0.4s刻みに6通りで行った。発電効率を図3.6に示す。有義波高3cm、有義周期1sの時、最大効率を示した。

 図3.6 不規則波中における発電効率

 発電効率が最大になる有義波高3cm、有義周期1secで外部抵抗を変化させ、発電効率に及ぼす外部抵抗の影響を見た。結果を図3.7に示す。330Ωが最も高い効率を示した。

 図3.7 発電効率におよぼす外部抵抗の影響

3.4 造波水路実験まとめ
 規則波中における波力発電ブイの発電実験を行い、動力取り出し装置の動力変換特性を求た。さらに、発電機の外部抵抗を変化させ、発電効率が最大となる値を決定した。また,不規則波中において発電実験を行い、有義波高3cm、有義周期1s、外部抵抗値330Ωの条件下において最大の発電効率0.25を示した。よって、最適な発電機と外部抵抗の組み合わせを求めることができた。

4. 実海域実験
 上記のブイを2021年2月から3月にかけて佐賀県唐津市呼子町殿ノ浦に設置した。図4.1に試験場の地図,表4.1に試験海域情報を示す。ブイは2月24日に設置し,3月5日に回収した。図4.2に設置の様子を示す。

図4.1 実験海域

表4.1 実験海域の位置
緯度 33°31'38 N 経度 129°52'54E 水深 10m


図4.2 ブイおよび波浪計測機器設置の様子

 図4.3に期間中の有義波高Hsとピーク周期Tpを示す。期間中の平均有義波高は0.03mであり。期間中に大きな変動は見られなかった。平均ピーク周期は8.32秒であった。これはブイの高効率周期からは幾分外れる海域となった。


図4.3 有義波高(左)および有義周期(右)

 図4.4にブイが撮影し送信した写真の例を示す。海域は陸上と比較して光量が多いため,使用したカメラの露出が合わず,ハイライト(明るい部分)の部分が白く抜けて白飛びした写真になった。また,大きな気象変化が無かったにも関わらず,設置後1日で送信不能になったため,今後耐久性や電力消費を検討するための長期試験を行う必要がある。


 図4.4 ブイが撮影した画像の例

5. まとめ
 本事業では漁場の監視に使用可能な監視カメラをもつブイを提案した。独立電源として波力発電を使用する海洋監視ブイを試作し,造波水路実験を行って性能を評価した。また,試作したブイを用いて唐津市で実海域試験を行った。海洋監視画像の撮影・送信に成功し,当初目的を達成した。
 今後の課題として以下が挙げられる。
・室内実験では気づかなかったが,実海域試験では昼間に光量がありすぎて画像が白飛びした。次回はカメラの前にスモークフィルムを貼る対策を考えている。
・造波水路実験では結果がでたものの,実海域試験では動力取り出し部が短期間に故障したため,耐久性を向上させる必要がある。

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